はじめに
こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PMとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。
今回の記事では、2024年のWeb3.0トピックを振り返ります! 2024年を通して、テック系のトレンドの中心は生成AIにあったと感じます。 ですが、Web3.0に関する動きとして、ビットコインETFの承認、Solanaブロックチェーンの躍進、米国大統領選挙をきっかけとした暗号資産相場の上昇など、業界としてまたテック系トレンドの中心に近づいた雰囲気を感じました。
1月: ビットコインETF上場へ、SEC米国史上初の現物ETFを承認
米国証券取引委員会(SEC)が、米国初となるビットコイン現物ETFの上場を承認しました。BlackRockやFidelityなど11件の申請が同時に承認され、2024年1月11日から取引が開始されました。
ETF承認は暗号資産市場にとって歴史的な一歩です。これまで機関投資家や一般投資家にとって、ビットコインへの投資は技術的なハードルや規制上の懸念から困難でした。しかし、ETFという伝統的な金融商品を通じて簡単にビットコインに投資できるようになりました。
また、5月にはSECがイーサ(ETH)の現物ETFも承認しています。
今年のビットコインの相場上昇の一因には、ETFによって機関投資家からの資金が流入していることがあるようです。
2月: Farcasterの台頭:分散型ソーシャルネットワークのユーザーが増加中
分散型ソーシャルネットワークのためのプロトコルであるFarcasterが、Web3.0に関心のある開発者を中心に注目を集めました。 Farcasterでは、ユーザーは自分のデータを所有し、Farcaster上で作成されたアプリ間でフォロー、フォロワーの関係を持ち運ぶことが可能です。 最も人気のあるアプリケーションはWarpcastで、X(旧Twitter)に非常に似ています。
X(旧Twitter)ではフォロー・フォロワーの関係のデータは運営元に保持されていて、他のSNSに持ち運ぶということは不可能でした。 Farcasterでは、ユーザ間の関係がブロックチェーンに保持されることによってアプリケーションを超えて持ち運べるようになりますので、まさにWeb3.0的な設計と言えます。
同様のプロトコルであるLensも、これまで招待制だったところ、アカウント作成を一般開放しました。 分散型ソーシャルネットワークのユーザーの拡大が、いよいよ本格化してくる波を感じたニュースでした。
しかしながら、その後、Farcasterの利用状況は大きく減少しました。6月にはFarcasterプロトコルを使ったユーザーの投稿やリアクションが1日約7万件ありましたが、10月には半分以下の約3.3万件まで落ち込みました。 Xなど既存のSNSの巨大なネットワーク効果を覆すことは難しい現実が示されています。
3月: イーサリアム「Dencun」、実装完了 レイヤー2手数料削減へ
イーサリアムの大型アップグレードである「Dencun」が完了しました。 このアップデートでは、イーサリアムのレイヤー2チェーンのガス代(手数料)の大幅な削減が実現されました。ますますレイヤー2チェーンのエコシステム拡大に期待が集まりました。
レイヤー2チェーンは、トランザクションを実行した結果のデータをレイヤー1であるイーサリアムに書き込み、その真正性を担保しています。 アップデートによって、データの書き込み先の領域が変更されました。この変更によって、イーサリアムに対してデータを書き込む時のガス代が大幅に削減され、結果的にレイヤー2チェーンのガス代も削減されたということになります。
Optimism, Arbitrum, Baseなどレイヤー2チェーンにとって追い風となるアップデートでした。
4月: ビットコインで4度目の半減期が完了
ビットコインでは、「半減期」という重要なイベントがあります。半減期は、約4年ごとに設定されており、マイニング(採掘)によってマイナー(ビットコインに計算リソースを提供しているコンピューターおよび管理者)が得られる報酬が半分に減少することを意味します。半減期は、ビットコインの供給量の増加を制御しインフレを防ぐために設計されています。 今回、2024年4月に半減期を迎え、ビットコインのマイニング報酬は6.25BTCから3.125BTCへと削減されました。
過去の半減期の前後では、相場への影響が顕著でした。しかし今回は5月時点での各メディアでの考察を見ますと、半減期の相場への影響が以前ほどではないとする意見が目立ちました。 ETFに承認されるなどして、金などのコモディティと同様に安全資産と見なされ始めているため、半減期の影響が相対的に小さくなっているのではと個人的には考えています。
5月: ソラナ、日本市場に本格参入
ソラナ(Solana)は、高速な処理能力と、トランザクションのコストの低さを特徴とするブロックチェーンです。 ソラナはFTX破綻後、開発者コミュニティが弱体化し、そのまま沈むかと思われていました。 しかし、冬相場を乗り越え、本記事執筆時2024年12月19日の時点ではTVL(Total Value Locked)で3位のチェーンとしての地位を確立しています。 今年に入ってからのDeFiプロトコルのエアードロップやミームコインのムーブメントにおいても中心的な存在であり、注目を集めています。
日本国内では、これまでソラナの開発者コミュニティはあまり活発ではありませんでした。しかし、元dYdXの大木氏がSuperteam Japan代表に就任したことにより、日本市場でのソラナの存在感が一気に高まりました。非EVMチェーンとして、イーサリアム(Ethereum)とは異なるポジションを取るソラナのようなチェーンの存在は、ブロックチェーン間の健全な競争のため重要だと考えます。
ソラナの特徴の一つは、スマートコントラクトをRustで実装する点です。 近年、Rustはバックエンド開発言語としてマイクロソフトやFigmaなどの 大手企業でも採用されており、ソラナのエンジニアコミュニティの拡大に大きな可能性を秘めています。Rustの堅牢性と性能の高さは、ソラナの技術基盤を支える重要な要素となっています。
TVLのランキングは以下ページを参照しております。 coinmarketcap.com
6月: 大手金融機関ら、分散型ID/デジタル証明書(DID/VC)の共同検討開始
大手金融機関によるDID/VC共創コンソーシアムは、分散型ID(DID)とデジタル証明書(VC)を活用した新しい本人確認の仕組みの検討を始めました。 金融機関が行った本人確認(KYC)結果を「本人確認済VC」として消費者に発行し、他の金融サービスで利用できる仕組みを検討しています。
現段階ではブロックチェーンの活用が明確に言及されているわけではありません。 しかし、DID/VCの仕組みは、ブロックチェーン技術と親和性が高く、双方の技術が共存するようなユースケースの可能性は大いにあると考えます。 ブロックチェーンの活用を視野に入れた検討を個人的には期待しています。
7月: TONエコシステムとTelegramの急成長
TON(The Open Network)エコシステムが、ソーシャルゲーム分野で急速に拡大しました。 TONは、世界的に人気のメッセージングアプリTelegramの開発企業が開発したブロックチェーンです。 Telegramは、TONブロックチェーン上で動作する暗号資産ウォレットを内包しています。
TONプラットフォーム上のゲームの成長が著しく、NotcoinやHamster Kombatが数か月で数千万ユーザーを獲得しました。 この成長からは、「メッセンジャーアプリ + ウォレット + ゲーム」の融合が、暗号資産の普及の最適解だったのか、と思わせられるほどです。
9月には、LINEも、Web3.0ミニゲームプラットフォームを発表しました。 今後も、ブロックチェーン技術と日常のコミュニケーションツールの融合が加速すると個人的には考えます。
www.neweconomy.jp www.bitget.com
8月: ソニーの新たな挑戦:Sony Block Solutions Labsがブロックチェーン「Soneium」の開発を発表
ソニーグループのSony Block Solutions Labsは、Ethereumのレイヤー2ブロックチェーン「Soneium(ソニューム)」の開発を発表し、Web3.0技術の普及と大衆化を目指すという計画を明らかにしました。
Soneiumの目標は、従来のインターネットサービス(Web2.0)とブロックチェーン技術(Web3.0)を接続し、ユーザーにとってより使いやすいプラットフォームを提供することです。 ソニーの多岐にわたる業界リーチを活かし、エンターテインメント、ゲーム、金融分野での革新的なアプリケーション開発を促進することが期待されています。
Astar Networkとの協業によって実現されており、既にローンチしているチェーンであるAstar zkEVMのSoneium L2への移行計画が発表され、既存のAstarエコシステムとの相乗効果が期待されています。
ソニーのブランド力と信頼性は、暗号資産やWeb3.0へ新規のユーザーや、これまで参入に躊躇していた企業の参入を促進する大きな可能性を秘めています。
既存の暗号資産、Web3.0のユーザーを惹きつけるには、ブロックチェーンおよびアプリケーション含めたエコシステムとしての継続的な価値創造と差別化が重要となると個人的には考えます。 また、日本市場に特化せず、グローバルな視点でのサービス展開が重要です。 大手企業発のブロックチェーンとしては米大手暗号資産取引所のCoinbaseがローンチしたレイヤー2ブロックチェーンである「Base」のエコシステムやマーケティング手法が、グローバルな視点での展開の成功例と言えるでしょう。
9月: Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し事実上のサービス終了
Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し、事実上のサービス終了となりました。2023年8月にローンチしたこのプラットフォームは、影響力のある個人のフィードへのアクセス権を「キー」としてトークン化し取引できる仕組みで、当初は大きな注目を集めました。ローンチから1ヶ月も経たないうちに、Friend.Techの日次収益は、イーサリアムの日次収益(ユーザーがトランザクションを実行する際に支払う手数料の日次合計)を記録するほどの成功を収めていました。
しかし、初期の勢いは長く続きませんでした。V2のローンチやトークンのエアドロップなど、ユーザーの関心を引くための施策を実施しましたが、取引高は低迷。2024年6月から8月の期間の手数料収入は通算でわずか6万ドルにとどまっています。 そして2024年9月、Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し、事実上のサービス終了となりました。
今回の閉鎖から、Web3.0におけるSNSプラットフォームの構築の難しさが浮き彫りになったと考えます。 暗号資産によるインセンティブ設計があっても、持続可能なコミュニティの形成は容易ではありません。
一方で、スマートコントラクトの管理権限をnullアドレスに移転するという意思決定は、ブロックチェーンならではの透明性を活かした潔い幕引きと感じました。 誰もが移転を確認でき、復活への期待を持たずに済むというメリットがあります。
この事例は、Web3.0プロジェクトにおいては、投機活動を契機とした短期の熱狂ではなく、長期的なユーザー価値の提供が不可欠であることを示唆しています。
10月: 暗号資産の保有者数とアクティブユーザー数が過去最高水準に達する
a16z crypto(Andreessen HorowitzのWeb3.0ベンチャーキャピタル部門)は、暗号資産の活動と利用が過去最高水準に達したとする報告書を発表しました。 同報告書によれば、2024年9月時点で世界の暗号資産保有者は約6億1,700万人に上り、月間アクティブユーザー数は最大6,000万人と推定されています。 a16z cryptoの最新レポートが示す6億人以上という保有者数は、暗号資産がもはや一部のテクノロジー愛好家だけの世界ではなくなったことを如実に表しています。
報告書では増加の要因として、レイヤー2ソリューションやSolanaはじめ取引手数料の安いチェーンの躍進が挙げられています。 取引手数料が大幅に低下し、より実用的なユースケースが生まれやすい環境が整ってきています。
しかし、日本市場に目を向けると、やや様相が異なります。私個人の感覚としては、身近な範囲では新規参入者の増加を実感しにくく、グローバルトレンドとの温度差を感じます。 この背景には、規制環境の違いや、日本市場特有のニーズに応えるキラーアプリケーションの不在があるのではないでしょうか。
今後は日本市場でも、分野によってはより身近なサービスとして暗号資産が浸透していく可能性はあります。 特に、IPコンテンツに強みのある日本では、エンターテインメント領域での応用が、日本市場でのブレイクスルーとなるかもしれません。
グローバルでの利用者増加は、暗号資産市場の成熟と実用化への期待を高めています。 この潮流が日本市場にも波及することを期待したいと思います。
11月: AIエージェント×Web3.0の新潮流 - ETHGlobal Bangkokハッカソンからの考察
タイ・バンコクで開催されたETHGlobalハッカソンにおいて、713のプロジェクトが参加し、その中でAIエージェントを活用したプロジェクトが注目を集めました。審査員の一人であるBase開発者のWill Binnsは、トークン化とAIエージェントという2つの顕著なトレンドが見られたと指摘しています。
特に興味深いのは、DAOGenieというプロジェクトです。これはDAOの投票に基づき、AIエージェントが購入、寄付、コミュニケーション、その他のタスクを自動的に実行するというものです。また、Industry.aiでは4つの専門AIエージェントがチームを組んで、複雑なブロックチェーン操作を処理するというアプローチを取っています。
このようなAIエージェントとブロックチェーンの組み合わせは、Web3.0の新たな可能性を示唆しています。AIが自律的かつ高速に取引を実行できることは、両技術の相乗効果として理解しやすく、大きな潜在力を秘めています。
しかし、AIエージェントによる取引が急増した場合の影響も考慮する必要があります。現在は低いガス代を特徴とするブロックチェーンが人気を集めていますが、むしろある程度の手数料を課し、取引速度や量に制限を設けるチェーンの方が、長期的には経済的な合理性を持つ可能性もあります。これは、AIエージェントの活動が市場に与える影響をコントロールする一つの手段となり得るからです。
AIとWeb3.0の融合は、テクノロジーの進化における重要な一歩ですが、その影響を慎重に見極めながら、持続可能な発展を目指していく必要があるでしょう。 www.theblock.co
12月: ドイツ銀行が示すWeb3.0時代の金融機関の姿 - イーサリアムL2技術を活用した新プロジェクト
金融大手ドイツ銀行が、イーサリアムのレイヤー2技術を活用した「Project Dama 2」を発表しました。
伝統的な金融機関である銀行が、パブリックブロックチェーンを活用する動きは、Web2.0とWeb3.0の対立ではなく共存の可能性を示唆する興味深い取り組みだと考えます。ドイツ銀行は、ゼロ知識証明(zkSync)技術を採用することで、トランザクションの効率化とコスト削減を行い、さらに銀行としての規制対応とブロックチェーンの透明性を両立させようとしている点です。特定のバリデーターを選択し、規制当局に取引記録への直接アクセスを提供することで、コンプライアンスを確保しつつ、ブロックチェーンの透明性という利点を活かす設計となっています。
ただし、現時点ではパイロットプログラムの段階であり、実用化に向けては課題も残されています。ユーザーにとって最も重要なのは、銀行による資産保護の信頼性と、Web3.0がもたらす資産の所有権という両者のメリットをいかに両立させるかだと考えます。
今回の取り組みでは、ゼロ知識証明の技術進歩がこのような革新的な取り組みを可能にしていると考えます。従来の金融システムとWeb3.0技術の融合による新たな金融サービスの登場が期待されます。
さいごに
2024年のWeb3.0業界は、米国大統領選の影響を受け、下期のバブル相場的な盛り上がりが目立った一年となりました。しかし、このような相場の動きに一喜一憂するのではなく、より本質的な価値創造に目を向ける必要があります。暗号資産はブロックチェーン技術が持つユースケースの一つに過ぎないからです。
今、Web3.0業界に求められているのは、一般ユーザーにとって真に価値のあるサービスを生み出すことです。そのためには、技術面での着実な進展はもちろんのこと、これまでにない革新的なビジネスの発想力が不可欠です。 エンジニアとして最新の技術動向をキャッチアップしながら、Web3.0の社会実装に向けて積極的に貢献していく次第です。
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