【月刊】Web3.0トピック振り返り~2025年3月編~

はじめに

こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PM・マネージャーとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。

2025年3月もWeb3.0の世界では様々な動きがありました。今回は、イーサリアムの大型アップデートの動向、国内でのステーブルコインやWorld ID活用の進展、新しいレイヤー2ソリューションの登場、そしてLINE基盤のDappの急成長といった注目のトピックをピックアップして振り返ります。

1. イーサリアム、次期アップグレード「Pectra」「Fusaka」で描く未来図

サマリー

イーサリアムでは、次期大型アップグレードとして「Pectra(ペクトラ)」と、その次に続く「Fusaka(フサカ)」の開発が進められています。これらのアップグレードは、イーサリアムのスケーラビリティと効率性をさらに高めることを目指しています。

  • Pectra(ペクトラ)アップグレード (2025年5月予定):

    • ステーキング上限の大幅引き上げ (EIP-7251): バリデータがステークできる最大のETH量が、現行の32ETHから2,048ETHへと64倍に引き上げられます。これによりバリデータ数の増加抑制や大規模ステーカーの運用効率向上が期待されます。
    • ブロブ容量の増加 (EIP-7691): L2(レイヤー2)ロールアップが利用するデータ領域(ブロブ)の容量を増やすことで、L2のトランザクションコストを低く維持します。
    • アカウント抽象化の強化 (EIP-7702): ユーザー体験とセキュリティの向上を目的として、スマートコントラクトベースのウォレット機能(ソーシャルリカバリー、トランザクションバンドル(承認と実行など、複数の操作を一度にまとめて処理し、ユーザーの手間やガス代を削減))が強化されます。
  • Fusaka(フサカ)アップグレード (Pectraの後、2025年~2026年頃目標):

    • PeerDAS (ピア・データ可用性サンプリング) の導入 (EIP-7594): この新しい技術により、ノードは全てのデータをダウンロードすることなく、一部データをサンプリングするだけでその可用性を検証できるようになります。これにより、L2のスケーラビリティを飛躍的に向上させ、トランザクションコストをさらに削減しつつ、ネットワークの分散化を維持することを目指します。

オピニオン

イーサリアムの一連のアップグレード計画は、特にレイヤー2のスケーラビリティ向上に強く焦点を当てていると感じます。Pectraでのステーキング上限引き上げは、バリデータ数の増加を抑制しネットワーク負荷を軽減する狙いがある一方、大口ステーカーへの集権化リスクも指摘されており、悩ましい問題です。

しかし、Fusakaで計画されているPeerDASは、この懸念に対するイーサリアムなりの回答と言えるかもしれません。PeerDASによって、ノード運用に必要なデータ量が削減されれば、ハードウェア要件のハードルが下がり、個人などの小規模ステーカーも参加しやすくなる可能性があります。これにより、スケーラビリティを追求しつつも、イーサリアムの根幹である分散性を維持しようという意図がうかがえます。

ブロックチェーンのトリレンマ(分散性・スケーラビリティ・セキュリティ)のバランスをどう取るかは永遠の課題ですが、イーサリアムがその価値の源泉である分散性を最重要視しつつ進化を続けている点は、今後も注目していきたいと考えます。

coinpost.jp

2. 国内初!SBI VCトレードがステーブルコイン「USDC」取り扱い開始

サマリー

国内の暗号資産取引所SBI VCトレードが、2025年3月4日に関東財務局から国内で初めて「電子決済手段等取引業者」としての登録を受けました。これは、2023年6月施行の改正資金決済法で「電子決済手段」と位置付けられたステーブルコインを国内で取り扱うために必要なライセンスです。この登録完了を受け、SBI VCトレードは米サークル社が発行する米ドル連動ステーブルコイン「USDC」の取り扱いを3月12日から開始しました(当初はベータ版)。同社は以前からサークル社と提携しており、SBIグループ全体でのステーブルコイン事業への取り組みが具体化した形です。

オピニオン

SBI VCトレードによるUSDC取り扱い開始は、日本のWeb3.0市場にとって大きな一歩だと感じます。特に法人にとっては、これまで海外取引所や自己管理ウォレットでの保有が主流だったステーブルコインを、国内規制下で認可された取引所を通じて安全に管理できるようになった意義は大きいでしょう。コンプライアンス面でのハードルが下がり、企業のステーブルコイン活用が進むきっかけになるかもしれません。

個人にとっても、すぐに日常決済で使われるわけではないものの、将来的にステーキングサービスなどが提供されれば、銀行の外貨預金よりも手軽な米ドル連動の資産運用手段として魅力が増すと考えられます。暗号資産取引所が安全性と利便性を担保することで、より多くの人が安心してステーブルコインを利用できる環境が整っていくことに期待できます。

www.neweconomy.jp

3. LINE Mini Dapp、開始1ヶ月でユーザー3,500万人突破!Kaiaチェーンも急成長

サマリー

LINEメッセンジャー内で利用できる分散型アプリ(Dapp)サービス「Mini Dapp」が、2025年1月のリリースからわずか1ヶ月で累計ユーザー数3,500万人を突破しました。これはKaia DLT財団とLINE NEXTが共同で提供するサービスで、専用アプリなしで手軽に楽しめる点が特徴です。初月にはアジア主要市場で約3億円相当のアプリ内販売を記録し、平均支出額(ARPPU)約5,800円、有料ユーザー比率(PUR)13%と商業的にも成功を収めています。

このMini Dappの成功は、基盤となるブロックチェーン「Kaia」の成長も後押ししており、Dappポータル経由で300万以上の新規ウォレットが生成され、Kaiaのアクティブウォレット数は世界3位(EVM互換チェーン内)、月間トランザクション数も2,738万件(124%増)に達するなど、エコシステム全体が急速に拡大しています。

オピニオン

LINE Mini Dappの目覚ましい成長は、やはり既存の巨大メッセージングプラットフォームを基盤にすることの強みを改めて示していると感じます。ユーザーはブロックチェーンを意識することなく、普段使いのLINEからシームレスにDappを利用できるため、Web3.0への参入障壁が劇的に下がります。これはTelegramにおけるTONエコシステムの成功戦略を彷彿とさせ、特にアジア市場での展開においては非常に効果的なアプローチだと感じます。

一方で、現状のDappにはエアドロップやリワードといった金銭的インセンティブでユーザーを惹きつける傾向も見られるため、その持続性が今後の課題になると考えます。一過性のブームに終わらせず、ユーザーが長期的に楽しめるゲーム性や体験価値を提供できるかが、LINE Mini DappとKaiaエコシステムのさらなる成長の鍵を握るのではないでしょうか。

www.neweconomy.jp

4. 超高速L2「MegaETH」が公開テストネット開始、初日で20,000 TPS達成

サマリー

イーサリアムのスケーラビリティ向上を目指す新たなレイヤー2(L2)ソリューション「MegaETH」が、公開テストネットを開始しました。報告によると、テストネット初日には1秒あたり20,000トランザクション(TPS)という高い処理速度を記録したとのことです。MegaETHは、トランザクションを並行して処理する「並列実行(Parallel Execution)」や最適化されたステート(状態)管理システムといった技術を採用し、最終的には100,000 TPS以上、10ms以下のブロックタイムという超高速・低遅延な性能を目指しています。アーキテクチャとしては、Optimistic Rollupをベースとしつつ、単一シーケンサーによる高速な順序付けや、データ可用性レイヤーとしてEigenDAを利用するなどの特徴を持っています。

オピニオン

MegaETHの登場は、L2の性能競争を新たな段階に進める可能性を秘めていると感じます。Vitalik氏が言及するなど、イーサリアムコア層からの注目度も高いようです。特に「並列実行」の採用は、Solana, Aptos, Suiなどの高性能L1で実証されているアプローチであり、これをL2で実現しようという試みは非常に野心的です。現在の主要なL2も進化していますが、依然として高性能L1には速度面で及ばない部分があります。MegaETHが目指す「L1並みの速度 + イーサリアムのセキュリティ」が実現すれば、オンチェーンゲームや高頻度取引(HFT)など、これまでL2では難しかったユースケースを開拓できる可能性があります。

テストネットでの20,000 TPSという数字はその片鱗を見せたと言えるでしょう。ただし、単一シーケンサーによる中央集権リスクや、EigenDAへの依存といったトレードオフも存在します。また、Optimistic Rollupベースであるため、L1での最終確定(ファイナリティ)には約7日かかる点も考慮が必要です。メインネットでの安定稼働と、これらのトレードオフをユーザーがどう評価するかが、今後の普及の鍵になると考えます。

www.theblock.co

5. 博報堂、World IDを地域活性化に活用 - 岡山・奉還町商店街で実証実験

サマリー

広告大手の博報堂が、World IDを活用した地域活性化施策「World・奉還町商店街プロジェクト」を岡山県岡山市で2025年3月15日より開始しました。これは、奉還町商店街振興組合など地元の団体やWeb3.0スタートアップKAMP.と連携した取り組みです。World IDは、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏らが関わるWorldプロジェクトが提供する、虹彩認証によって「人間であること」をプライバシーを守りながら証明できるデジタルIDシステムです。今回のプロジェクトでは、World ID登録者が商店街の120店舗で限定クーポンを利用できるなど、デジタルとリアルを融合させた体験を提供します。認証に必要なデバイス「Orb」は現地のカフェに設置されています。博報堂は今後、この実証実験で得た知見をもとに、他地域での展開も検討しています。

オピニオン

World IDが国内の大手企業や地域コミュニティと連携し、具体的な社会実装に進んでいる点は非常に興味深いです。AI技術が進化し、オンライン上で人間とボットの区別がつきにくくなる中で、「人間証明」の重要性はますます高まっていくと考えられます。World IDは、まさにその課題解決を目指すソリューションであり、OpenAIのサム・アルトマン氏が関与していることからも、AIの発展を見据えた長期的な構想が感じられます。

地域活性化という文脈では、クーポン配布などで懸念される複数アカウントによる不正利用を防ぎつつ、参加者のプライバシーにも配慮できる可能性があります。マイナンバーカードなど既存のIDとは異なり、詳細な個人情報を渡さずに「人間である」という事実だけを証明できる(とされる)点は、今後のデジタル社会におけるIDのあり方として注目に値します。今回の岡山での取り組みを皮切りに、マーケティング施策やオンラインサービスでの認証など、様々な分野での活用が進むか、今後の動向に注目しています。

www.neweconomy.jp

テコテックの採用活動について

テコテックでは新卒採用、中途採用共に積極的に募集をしています。採用サイトにて会社の雰囲気や福利厚生、募集内容をご確認いただけます。ご興味を持っていただけましたら是非ご覧ください。

www.tecotec.co.jp