【月刊】Web3.0トピック振り返り~2024年9月編~

はじめに

こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PMとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。

「【月刊】Web3.0トピック振り返り」では、毎月Web3.0関連で気になったトピックを取り上げて紹介していきます。

1. コインベースのBase、オンチェーンサマーで7億円超の収益を達成

コインベースが開発したL2ネットワーク「Base」のマーケティングイベント「オンチェーンサマー」が、前年比8倍となる200万を超えるウォレットの参加を記録し、クリエイターへのNFTミント収益は500万ドル(約7億円)を突破しました。

音楽、アート、ゲームなどのコンテンツがBaseネットワーク上で展開され、特にStripeなどと共催したハッカソンでは7,500人以上の開発者から1,250件を超えるプロジェクトが提出されました。現在のTVL(預け入れ資産総額)は61億ドル(約8,700億円)で、L2のブロックチェーンの中では2位のポジションを確立しています。

Baseの成功は大手企業が後ろ盾となるブロックチェーンの好例と言えます。Web3.0の元々の理念として重要であった非中央集権性は薄れているものの、ユーザーにとっては利便性が優先される現実があります。 コインベースという信頼できる企業の存在が、むしろWeb3.0の普及を後押ししている興味深い事例と考えます。

coinpost.jp

2. Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し事実上のサービス終了

Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し、事実上のサービス終了となりました。2023年8月にローンチしたこのプラットフォームは、影響力のある個人のフィードへのアクセス権を「キー」としてトークン化し取引できる仕組みで、当初は大きな注目を集めました。ローンチから1ヶ月も経たないうちに、イーサリアムの日次収益(ユーザーがトランザクションを実行する際に支払う手数料の日次合計)を記録するほどの成功を収めていました。

しかし、初期の勢いは長く続きませんでした。V2のローンチやトークンのエアドロップなど、ユーザーの関心を引くための施策を実施しましたが、取引高は低迷。2024年6月以降の手数料収入はわずか6万ドルにとどまっています。 そして2024年9月、Friend.Tech運営がスマートコントラクトの管理権限を放棄し、事実上のサービス終了となりました。

今回の閉鎖から、Web3.0におけるSNSプラットフォームの構築の難しさが浮き彫りになったと考えます。 暗号資産によるインセンティブ設計があっても、持続可能なコミュニティの形成は容易ではありません。

一方で、スマートコントラクトの管理権限をnullアドレスに移転するという意思決定は、ブロックチェーンならではの透明性を活かした潔い幕引きと感じました。 誰もが移転を確認でき、復活への期待を持たずに済むというメリットがあります。

この事例は、Web3.0プロジェクトにおいては、投機活動を契機とした短期の熱狂ではなく、長期的なユーザー価値の提供が不可欠であることを示唆しています。

www.theblock.co

管理権限がnullアドレスに移転されたトランザクション

3. イーサリアムL2の分散化に向けVitalik Buterin氏が圧力

イーサリアムの共同創設者Vitalik Buterin氏が、レイヤー2(L2)ネットワークの分散化に関する新たな指針を示しました。 具体的には、2025年以降、「ステージ1」の分散化基準を満たさないL2ネットワークへの公的支持を取り下げると表明しました。

L2の分散化は「ステージ0」から「ステージ2」まで3段階で定義されており、現在多くのL2プロジェクトは開発者による直接介入が可能な「ステージ0」に留まっています。Vitalik氏が求める「ステージ1」は「不正証明や有効性証明に基本的に依存しており、限定的にマルチシグで介入できる部分を持つ段階」となっています。 この厳格な基準に現在到達しているのは、ArbitrumやOptimism、ZKsync Liteなど、僅か4つのプロジェクトのみです。

Vitalik氏の要求は、乱立するL2プロジェクトに一定の品質基準を設けることで、ユーザーの保護とエコシステムの安定性確保を図る意図が読み取れます。 しかし、イーサリアムの創設者という影響力ある立場から、特定の基準を事実上強制することへの懸念の声も上がっています。 分散化というブロックチェーンの根本的な価値を追求する一方で、その実現手段に中央集権的な圧力を用いることへの矛盾を指摘する意見もあり、この動きがL2エコシステムの発展にどのような影響を与えるのか、業界関係者から注目が集まっています。

www.neweconomy.jp

4. SuiブロックチェーンにUSDCが進出、エコシステム拡大に期待

Suiブロックチェーンで、大手ステーブルコインUSDCのネイティブ発行が開始されることが発表されました。CircleとMysten Labsの提携により実現するこの動きは、Suiエコシステムの流動性向上に大きく貢献すると期待されています。

USDCは現在、ステーブルコインの中で世界第2位の時価総額(350億ドル)となっています。Ethereum、Avalanche、Polygonなど、すでに15のブロックチェーンネットワークをサポートしており、Suiはその新たな発行先となります。

このニュースは、Suiの成長戦略において重要な意味を持つと考えられます。 2025年には携帯型ゲーム機「SuiPlay0x1」の発売も予定されており、Suiはゲーム分野での成長を目指しています。現時点でUSDCとゲーム分野との具体的な連携は発表されていませんが、今後の展開次第では、高速なトランザクションを活かした新たなユースケースが生まれる可能性もあります。

cryptoslate.com

bittimes.net

5. ドナルド・トランプ氏がDeFiプロジェクトを発表

ドナルド・トランプ氏は、DeFi(分散型金融)プロジェクト「World Liberty Financial」を立ち上げ、独自トークン「WLFI」の発行を発表しました。 正確には、トランプ氏の家族が中心となり立ち上げたプロジェクトになります。 トランプ氏は発表の中で、米国証券取引委員会(SEC)について興味深い発言をしています。「SECは私がこの分野に参入すると知って以来、暗号資産プロジェクトに対してより柔軟な姿勢を見せるようになった」と述べ、規制当局の対応に変化が生じていることを示唆しています。

ただし、WLFIトークンには制限があります。販売対象は適格投資家と非米国人に限られ、経済的利益を伴わないガバナンストークンとして設計されています。これは米国の証券法への配慮と考えられます。

政治的影響力のある人物が暗号資産プロジェクトに参入し、トークンの発行まで行うというのは、印象的な出来事だと感じました。 米国で、暗号資産へのネガティブイメージが払拭されつつある雰囲気を感じました。(もちろん、懐疑的に見ている人もいることを想像しますが。) 日本では暗号資産の税制面の議論は行われていますが、政治的に影響力のある人がトークンを発行するようなことになるのは、まだ遥か先に感じます。

cryptobriefing.com

今回取り上げたトピックは以上です! 次回もぜひご一読ください。

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