はじめに
こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PM・マネージャーとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。
2月もWeb3.0の世界では様々な動きがありました。イーサリアムの進化、Lidoの機関投資家向け新機能、史上最大の暗号資産ハッキング事件、エルサルバドルのビットコイン法定通貨撤回、そして日本初のUSDC対応カードの登場など、重要なニュースが続きました。それぞれの出来事について詳しく見ていきましょう。
1. イーサリアム、PoS移行後初のガスリミット引き上げを実施
サマリー
イーサリアムが2021年のProof of Stake(PoS)移行後、初めてとなるガスリミット引き上げを実施しました。バリデーターによる投票により、ブロックのガスリミットが30Mから31M以上に引き上げられ、最終的には36Mまで到達する見込みです。この変更はハードフォークなしに実装され、ブロックあたりの処理能力向上、ピーク時の手数料低下、スマートコントラクト実行効率の改善などの効果をもたらします。
オピニオン
この変更はイーサリアムの重要な進展だと感じます。特にL2ソリューションのコスト削減は、一般ユーザーにとってDAppsやDeFiサービスへのアクセスを容易にします。 重要な仕様変更がバリデーターの投票によって決定されるという点は、分散型のガバナンスを体現していて、興味深いです。 特に、このような大きな仕様変更がどのような議論を経て決定されたのか、そのプロセスにも注目していくことが、分散型ガバナンスの健全性を保つ上で重要になってくると考えます。 www.theblock.co
2. Lido V3、カスタマイズ可能なstVaultsで機関投資家向け機能を強化
サマリー
イーサリアムのステーキングで有名なLidoが、新しいバージョン「Lido V3」を発表しました。これは、ステーキングの仕組みを大きく進化させるものです。V3の中心となるのは「stVaults(ステーキング・ボールト)」という新しい機能です。これは、レゴブロックのように機能を組み合わせられるモジュール式の仕組みで、ユーザーは「誰に検証作業を任せるか(ノードオペレーター)」や「どんな設備を使うか(検証インフラ)」を自分で選べるようになります。特に、銀行や証券会社のような大きな金融機関(機関投資家)にとっては朗報です。機関投資家は厳しいコンプライアンス要件を守る必要がありますが、stVaultsを使えば、そのルールに合った運用方法を自分でカスタマイズできます。これにより、ルールを守りつつ、Lidoを通じてイーサリアムのステーキングに参加し、その証明となる「stETH」というトークンを手に入れられるようになります。
オピニオン
Lido V3は、特に厳しいルールを守る必要がある機関投資家にとって画期的だと感じました。これまでは、DeFiの分散的な性質、すなわち企業の後ろ盾がなく資金の保証がないことが参入障壁となっていましたが、V3の「stVaults」によって、機関投資家はコンプライアンス要件を満たしながらステーキングに参加できるようになりました。これは、DeFiがより実用的で成熟した金融インフラへと進化している証拠であり、機関投資家の参入を促し、イーサリアムエコシステム全体の成長を加速させる可能性を秘めていると考えます。
3. 北朝鮮ハッカーが「史上最大の暗号資産盗難」を実行
サマリー
ブロックチェーン分析企業のArkham Intelligenceが、大手暗号資産取引所Bybitから巨額の資金が盗まれた事件について、その犯人が北朝鮮のハッカー集団「Lazarus Group」であると発表しました。Arkham Intelligenceの分析によると、盗まれた金額は約14.6億ドル(日本円にして約1.5兆円相当)に上るとされています。この金額は、これまで報告された単一の暗号資産ハッキング事件による被害額としては過去最大規模となるため、「史上最大の暗号資産盗難」と呼ばれています。手口としては「ブラインドサイニング」という、取引内容をよく確認せずに、承認者がトランザクションを承認してしまう人的ミスを狙った手口が使われました。なお、BybitのCEOであるBen Zhou氏は、この莫大な損失が回収できなかったとしても、取引所の運営に必要な支払能力は維持できると、ユーザーに対して説明しています。
オピニオン
このハッキング事件は、技術的なセキュリティだけでなくヒューマンエラーの要素がセキュリティの最大の弱点になることを改めて示したと感じます。どれだけ技術が発達しても、人間のミスや思い込みがハッキングの糸口になります。 一方で、大規模なハッキングにも関わらず、Bybitの迅速な対応により大きな混乱を防げたことは暗号資産市場の成熟度を示しています。
4. エルサルバドル、法改正でビットコインを法定通貨から排除へ
サマリー
中米エルサルバドルが、法改正によりビットコイン(BTC)を法定通貨から撤回することが2月3日に報じられました。エルサルバドルの立法議会は1月29日、ビットコイン法の改革を承認。2021年9月に承認された法律の6つの条項が修正され、3つが削除されたことで、ビットコインは法定通貨ではなくなりました。ビットコインの使用は市民と民間企業間の交換に限定され、その受け入れは義務から任意へと変更。この法改正には、国際通貨基金(IMF)との14億ドル(約2,203億円)の融資交渉が関係しているとみられています。
オピニオン
ビットコインを法定通貨に採用するという取り組みは、実験的かつ画期的な試みであり、ブロックチェーン技術の社会的認知向上に大きく貢献したと思います。しかし、ビットコインの高いボラティリティという性質が法定通貨としての役割と相性が悪かったのではないでしょうか。ビットコインは投資対象や価値保存手段としては機能しますが、日常決済には安定性が求められます。この結果は暗号資産の社会実装の失敗ではなく、ビットコインの特性と法定通貨という目的のミスマッチと捉えるべきでしょう。社会実験としては非常に意義のあるものだったと考えます。
5. オリコ、USDC対応の国際ブランドカード「SlashCard」発行へ
サマリー
オリエントコーポレーション(オリコ)、アイキタス、SLASH VISIONの3社が、米ドル建てステーブルコイン「USDC」を担保とした国際ブランドカード「SlashCard」発行に向けて提携合意したことが2月13日に発表されました。このカードは、USDCを担保として活用するBNPL(Buy Now Pay Later/後払い決済)サービスで、日本の規制環境に対応した日本居住者向けの国内初のサービスです。2025年前半の提供開始を目指し、Visaの全加盟店での利用が可能となります。ユーザーのアンホステッドウォレット内のUSDCと同額相当の与信枠が付与され、決済後に使用額が自動引き落としされる仕組みです。
オピニオン
暗号資産の社会実装において、日常的な決済に使えるかどうかは重要なポイントですが、これまで様々な事業者の挑戦にも関わらず広く普及するには至っていませんでした。SlashCardはUSDCを担保として同額の決済ができ、通常のクレジットカードと変わらないユーザー体験を提供する点で注目に値します。既存の暗号資産保有者にとってはその資産を日常生活で活用できる選択肢が増え、外貨預金の代わりにUSDCを持つユーザーにもマッチする仕組みです。暗号資産取引所であるSBI VCトレードがUSDCを取り扱い始めたこととの組み合わせで、普及のポテンシャルは高いと感じます。
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