はじめに
こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PM・マネージャーとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。
2025年4月もWeb3.0業界では様々な動きがありました。今月も注目すべきトピックをピックアップしました。
1. MetaMask、イーサリアムのガストークンにETH以外を選択可能に
サマリー
Web3ウォレットの「MetaMask」は、イーサリアム上での取引手数料(ガス代)として、ETH以外の複数のトークンを選択できるようになったことを4月25日に発表しました。これにより、ユーザーはUSDT、USDC、DAIなどのステーブルコインや、wBTC、wETHといったラップドトークンなどをガス代として利用できるようになります。この機能はChrome拡張版のMetaMask(v12.16以降)で利用可能です。これは、2025年2月に公開されたMetaMaskのロードマップに基づく機能拡張の一環であり、ユーザーはETHを別途用意する手間なく、保有するトークンで直接ガス代を支払えるようになり、利便性が向上します。
オピニオン
このアップデートは、特にイーサリアムを初めて利用するユーザーにとって、ガス代の準備というハードルを大きく下げる点で非常に意義深いと感じました。これまではガス代のためにETHを別途購入・送金する必要がありましたが、保有しているステーブルコイン等で支払えるようになることで、よりスムーズな取引体験が可能になります。
USDCなどのステーブルコインは、数多くのチェーンで流通しています。ユーザーが新しく使いたいチェーンに対し、別のチェーンからUSDCを送金してガス代として使用する、という活用方法も考えられます。
特に、ボラティリティ(価格変動)の低いステーブルコインでガス代を支払えることは、コスト管理の観点からも魅力的です。今後は、銀行連携などでステーブルコインの入手がより容易になることも予想され、この機能の重要性はさらに高まるでしょう。マルチチェーン対応を進めるMetaMaskの戦略とも合致しており、Web3.0のマスアダプションに向けた重要な一歩と考えます。
2. イーサリアムのEVMをRISC-Vに置き換える長期提案
サマリー
イーサリアムの開発者コミュニティフォーラム「Ethereum Magicians」にて、現在の実行環境であるEVM(Ethereum Virtual Machine)を、オープンソースの命令セットアーキテクチャであるRISC-V(リスクファイブ)に置き換えるという長期的な提案が議論されています。EVMは独自の命令セットを持つため、ハードウェア最適化や開発ツール連携に制約がありました。一方、RISC-Vは標準化されており、柔軟性や拡張性が高く、幅広いハードウェアサポートやツールチェーンを利用できる利点があります。この提案は、イーサリアムのパフォーマンス向上、開発者体験の改善、セキュリティ強化を目的としていますが、既存のスマートコントラクトとの後方互換性維持や移行の技術的複雑さ、コミュニティ合意形成などが課題として挙げられています。
オピニオン
EVMをRISC-Vに置き換えるという提案は、イーサリアムの将来的なスケーラビリティと進化を見据えた非常に野心的な試みだと感じます。EVMの独自仕様は、これまでイーサリアムの成長を支えてきた一方で、パフォーマンスや開発効率のボトルネックにもなっていました。標準的でオープンなRISC-Vを採用することで、ハードウェアレベルでの最適化が進み、より高速で効率的な実行環境が実現する可能性があります。また、既存の豊富な開発ツールやライブラリを活用できるようになることで、開発者体験も大きく向上するでしょう。もちろん、既存の膨大なエコシステムとの互換性をどう担保するか、移行に伴うリスクをどう管理するかなど、解決すべき課題は山積みです。しかし、この提案が実現すれば、イーサリアムはよりオープンで高性能なプラットフォームへと進化を遂げる可能性を秘めていると考えます。
3. Circle、金融機関向け決済ネットワーク「CPN」を発表
サマリー
ステーブルコインUSDCの発行元であるCircleは、金融機関を接続し、グローバルな資金移動を効率化する「Circle Payments Network (CPN)」のパイロットプログラムを発表しました。CPNは、銀行、決済事業者、送金業者などの金融機関が、USDCやEURCといった規制されたステーブルコインを決済手段として利用し、24時間365日、ほぼリアルタイムかつ低コストで国際送金を行うことを可能にするネットワークです。CPNはCircleが運営するネットワークであり、参加する金融機関は厳格なコンプライアンス基準を満たす必要があります。
オピニオン
CPNの登場は、従来の国際送金が抱える時間的制約、高い手数料、複雑な手続きといった課題を、ステーブルコインとブロックチェーン技術を活用して解決しようとする野心的な試みです。金融機関にとっては、CPNに参加することで、これまで必要だった個別の提携契約なしにグローバルな決済ネットワークにアクセスでき、資本効率の向上や新たな市場開拓、ビジネスモデル構築の機会を得られる可能性があります。エンドユーザー(企業や個人)も、金融機関がCPNを活用することで、より迅速かつ安価な国際送金サービスの恩恵を受けられるようになるでしょう。
また、Circle社が提供するCCTP(Cross-Chain Transfer Protocol)がUSDCをブロックチェーン間で移動させるための技術プロトコルであるのに対し、CPNはより広範な金融機関間の「決済ネットワーク」としての側面が強いと言えます。Circleがネットワーク運営者としてコンプライアンスを重視する姿勢を示している点も、金融機関が安心して利用できる基盤を構築する上で重要です。この取り組みが、国際送金のあり方を大きく変革する可能性を秘めていると感じました。
4. Web3.0ゲームトークン、過去最大の暴落を記録
サマリー
The Blockの報道によると、Web3.0ゲームに関連するトークンが市場全体で過去最大の暴落を記録しました。Axie Infinity (AXS)、The Sandbox (SAND)、Decentraland (MANA) といった主要なゲームトークンは、24時間で軒並み30%以上の大幅な下落を見せました。この暴落の背景には、暗号資産市場全体の低迷に加え、各プロジェクトが抱えるユーザー数の減少や収益モデルの課題、規制環境の変化などが複合的に影響していると分析されています。
オピニオン
今回のWeb3.0ゲームトークンの暴落は、一時的な熱狂が冷め、プロジェクトの本質的な価値が問われるフェーズに入ったことを示唆していると感じます。多くのWeb3.0ゲームは、「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」モデルを掲げて登場しましたが、トークン価格に依存したエコノミクスは持続可能性に課題を抱えていました。ゲーム自体の面白さや継続的なエンゲージメントよりも、投機的な側面が先行していたプロジェクトは、市場環境が悪化すると厳しい状況に立たされます。
一方で、筆者個人としては、STEPNのように運動という実用的な価値に紐づいたゲームは、プレイ頻度こそ下がったものの、ゲームをプレイすること自体に意義を感じており、今も継続しています。このようなトークンが補完的な役割を果たすモデルは比較的安定しているように見受けられます。今後は、単に稼げるだけでなく、純粋に「楽しい」と思えるゲーム体験を提供し、持続可能な経済圏を設計できるかが、Web3.0ゲーム成功の鍵となると考えます。
5. JASRAC、楽曲情報管理システム「KENDRIX」がSoneiumに対応
サマリー
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、音楽クリエイター向けの楽曲情報管理システム「KENDRIX」の基盤ブロックチェーンを、ソニーグループが開発するパブリックブロックチェーン「Soneium」に移行すると発表しました。Soneiumはイーサリアムのレイヤー2ソリューションであり、高速処理と低コストを特徴としています。今回のアップデートにより、KENDRIXにはブロックチェーンを利用した「存在証明機能」と、オンラインでの本人確認を効率化する「eKYC機能」が追加されます。これにより、楽曲権利の管理における透明性と信頼性が向上し、クリエイターは自身の作品情報をより安全かつ効率的に管理できるようになります。
オピニオン
JASRACがKENDRIXの基盤にパブリックブロックチェーンであるSoneiumを採用したことは、著作権管理という実社会の課題解決にブロックチェーン技術を活用する取り組みとして非常に興味深いと感じました。これまでプライベートブロックチェーンで運用されていたシステムをパブリックチェーンに移行することで、データの透明性や耐改ざん性がさらに高まることが期待されます。ソニーというエンターテインメント大手が開発するブロックチェーン基盤との連携は、将来的に音楽関連の権利情報をより統合的に管理し、クリエイターへの適切な収益還元や、新たなファンエンゲージメントの仕組み構築に繋がる可能性を秘めていると考えます。
まとめ
4月もWeb3.0界隈では注目すべき動きが多く見られました。MetaMaskにおけるガス代支払いの柔軟化によるユーザー体験の向上、イーサリアムの将来的な基盤技術に関する議論、CPNによるステーブルコインを活用した国際送金の新たな可能性、そしてJASRACによる著作権管理へのブロックチェーン技術導入など、金融やエンターテインメントといった実社会での活用が着実に進んでいます。技術の進化と社会実装が同時並行で進むWeb3.0の動向を引き続き注視していきたいと思います。
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