はじめに
こんにちは。次世代デジタル基盤開発事業部の鈴木康男です。エンジニア・PM・マネージャーとして、Web3.0に関わるプロジェクトを担当しております。
5月分のWeb3.0に関するニュースを、私なりの視点で掘り下げて解説していきます。
1. MetaMask、ついにSolanaへネイティブ対応
サマリー
Web3.0ウォレットのデファクトスタンダードであるMetaMaskが、Solanaネットワークへのネイティブ対応を2025年5月27日に発表しました。これにより、ユーザーは単一のウォレットで、従来のEVM互換チェーンとSolanaの両方をシームレスに管理できるようになります。トークンの送受信、スワップ、購入、そしてブリッジまで、主要な機能がMetaMask内で完結します。
さらに、MetaMaskが提供するフィッシング警告やトランザクションの事前シミュレーションといった高度なセキュリティ機能がSolana上でも利用可能となり、ユーザーはより安全にエコシステムにアクセスできます。MetaMaskは今後、さらに多くの非EVMネットワークへの対応を計画しており、マルチチェーン時代における中心的な役割を担う姿勢を明確にしています。
オピニオン
Solanaエコシステムにとって、これは "最後のピース"が埋まったと言えるほどの大きな出来事です。これまでユーザーはPhantomなど別の専用ウォレットを必要としていましたが、膨大な数の既存MetaMaskユーザーがシームレスにSolanaの世界へ流入してくる道が開かれました。
特に秀逸なのが、MetaMaskのインターフェース内で完結する 「ブリッジ機能」です。これまでは、ユーザー自身が信頼できるブリッジサービスを探し、ウォレットを接続して複雑な操作を行う必要がありました。この手間が一切なくなり、数クリックで資産移動が完了する体験は、初めてSolanaに触れるユーザーにとってこの上なく親切な設計です。この統合は、単にSolanaが使えるようになったという以上に、複雑化するマルチチェーン時代のユーザー体験を一段階引き上げる、非常に重要なアップデートだと感じています。
2. Coinbase、HTTPでのオンチェーン決済を可能にする「x402」プロトコルを発表
サマリー
Coinbaseは、Webの標準的な通信プロトコルであるHTTPを利用して、オンチェーン決済を可能にする新しいオープンソースプロトコル 「x402」を発表しました。このプロトコルは、長年事実上使われてこなかったHTTPステータスコード「402 Payment Required」を再利用するものです。
x402プロトコルの仕組み
リソース要求
クライアント(ユーザーやAIエージェント)が有料リソース(API、記事、データなど)にアクセスを要求支払い指示
サーバーが「402 Payment Required」応答を返し、支払い先ウォレット、金額、使用トークンの情報を提供オンチェーン決済
クライアントが受け取った情報に基づき、オンチェーンで支払いを実行アクセス許可
クライアントが支払い証明(署名)を付けて再度リソースを要求し、サーバーが検証後にリソースへのアクセスを許可
APIキーや事前登録、請求書発行といったプロセスが不要になり、開発者は一行のコードでサービスに決済機能を組み込めます。
オピニオン
"眠っていた"標準技術と現代のブロックチェーン技術が融合した、非常に興味深い取り組みです。従来のインターネット決済は外部サービスへの依存が必須でしたが、x402はHTTPの枠組みで直接決済を完結させ、よりシームレスな価値交換を可能にします。
このプロトコルの真価は、特にAIエージェントとの組み合わせで発揮されると考えます。
例えばAIがWebコンテンツから学習する際、x402を通じて自動的に対価を支払うことで、コンテンツ提供者には正当な収益が還元され、AIは質の高い情報へアクセスし続けられるという、健全なエコシステムの構築などのユースケースが期待できます。x402は単なる決済プロトコルに留まらず、AI時代の新しい情報経済圏を築くための基盤技術となるポテンシャルを秘めていると感じます。
3. Coinbase、鍵管理不要の「CDP Wallet」を発表
サマリー
Coinbaseが、開発者向けの新しいウォレットインフラ 「CDP Wallet」を発表しました。これは、開発者が秘密鍵を直接管理する複雑さやセキュリティリスクから解放され、APIを通じてプログラム可能な自己管理型ウォレットを構築できるサービスです。
セキュリティの核としてAWSのTEE(Trusted Execution Environment)技術を活用しています。CPU内に隔離された安全な実行環境で秘密鍵を扱うことで、Coinbaseの管理者でさえ鍵にアクセスできない高い安全性を確保しています。これにより、開発者は中央集権型のサービスを開発するような感覚で、分散型アプリケーションを構築できます。
オピニオン
開発者にとって、ユーザーの秘密鍵を管理する責任とリスクから解放される点は大きなメリットです。サービス開発そのものに集中しやすくなるでしょう。一方、エンドユーザー、特に初心者にとっては、シードフレーズ管理の煩わしさから解放されるため、Web3.0サービスへの参入障壁を下げる可能性があります。
その根幹は既存の堅牢な技術ですが、それをWeb3.0の世界にうまくパッケージングして提供する点にCoinbaseの巧みさを感じます。
4. Succinct、イーサリアムブロックのリアルタイムZK証明を実現
サマリー
ゼロ知識証明(ZKP)技術を開発する「Succinct」が、イーサリアムのブロックが正しいという証明を、ブロック生成とほぼ同じ12秒以内に完了させる技術的ブレークスルーを発表しました。これは「ムーンショット(実現困難な挑戦)」とされてきた目標であり、新しい証明アルゴリズムやハードウェアの最適化によって実現されました。
この技術により、取引の正しさを瞬時に数学的に保証できるようになります。特に、異なるブロックチェーンを繋ぐ「ブリッジ」が、この技術によって安全かつ非常に高速になることが期待されています。ただし、イーサリアムの心臓部に導入するには、攻撃時などの最悪ケースへの対応や、莫大な消費電力といった課題が残されています。
オピニオン
ZKPの活用事例として、クロスチェーンブリッジの高速化は非常に大きなメリットだと感じます。現状、ブリッジには10分から30分、あるいはそれ以上かかることも珍しくありませんが、この技術が実用化されれば、ユーザーはチェーンの移動をほとんど意識することなく、シームレスな体験を得られるようになります。
これは、アプリケーションの裏側で複数のブロックチェーンが連携し、あたかも単一のシステムであるかのようにトークンが移動するといった、新しいタイプのアプリケーションの登場を大きく後押しすると考えます。ユーザーが意識しないところで複雑な取引が高速に実行される、そんな未来がすぐそこまで来ていると感じます。
5. NFTマーケットプレイス「tofuNFT」がサービス終了へ
サマリー
マルチチェーンNFTマーケットプレイス 「tofuNFT」が、2025年5月末にサービスを終了しました。NFT市場全体の冷え込みと業界再編を象徴する出来事の一つです。COINJINJAによって運営されていたtofuNFTは、30以上のEVM互換チェーンに対応するマルチチェーン戦略を特徴としていました。
この市場環境を受け、Nike傘下の「RTFKT」やKraken、BybitのNFTマーケットプレイスも相次いでサービスを終了しており、市場が新たなフェーズに入ったことを示唆しています。なお、運営元のCOINJINJAは、今後はソニー系のブロックチェーン「Soneium」上での新サービスなどに注力するとしています。
オピニオン
日本人のファウンダーがグローバルに挑戦するサービスとして大きな期待を寄せていただけに、非常に寂しく感じます。2021-2022年頃、OpenSeaがNFTマーケットプレイスの市場を独占する中で、tofuNFTは新しいチェーンへの迅速な対応といったスピード感で際立っており、そのサービス品質は世界に全く遜色ありませんでした。
NFT市場のバブルが終焉し、市場が縮小している現状は仕方のないことかもしれません。しかし、Web3.0という世界的なうねりの中で、日本発のチームがこれほど野心的なサービスを立ち上げ、グローバルな存在感を示したことは、誇るべき功績だと感じています。
まとめ
今月は、MetaMaskのSolana対応やCoinbaseのx402プロトコルなど、技術のアップデートに関するニュースが目につきました。 市場の冷え込みを示すニュースもあった一方で、水面下では着実に、Web3.0がより多くの人にとって使いやすく、安全なものになるための技術革新が進んでいることを強く感じさせる1ヶ月でした。
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